タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

新穂高から槍ヶ岳

新穂高から槍ヶ岳往復は、深夜に出てワンデイでやっつけるのが粋だ。2019年にショートスキー「クマさん」を履いてやったことがある。

槍ヶ岳(新穂高温泉から往復) - 2019年03月02日 [登山・山行記録]-ヤマレコ (yamareco.com)

板が短かったし、時期も早く雪が豊富だったので、問題の白出沢~滝谷出合区間も、すべて履いたまま歩いた気がする。しかし、真っ暗な滝谷出合で、エベレストのアイスフォールのようなデブリの山の中を右往左往して大変だった記憶があり、今度は長い板で行くので、明るい時間に通りたいなと思い、槍平で1泊する計画を立てた。引退して時間もあるはずなのに、お泊まり山行をやっていないし、ここいらで1泊してくるのも悪くない。

前回は、短いクマさんが、パウダーに埋まって滑れなかった。傾斜はそんなにキツくなかったと思う。長い板「カラスくん」でダウンヒルしようではないか。

奥さんが、名古屋遠征するのに合わせて、駅まで送ってその足で中央道八王子ICに向かう。八王子ICが近づいたので、ETCをセットすると機械が反応しない。もともと、音は出ないのだが、緑のランプが点かない。怪しいので、ETC/一般ゲートから入りたかったが、八王子にはないので一番左の空いているゲートに入った。やっぱりバーは開かない。

係員がやってくるまで待つことになるのかと思ったら、スピーカーから通行券を取れと指示された。ああ、これなら楽だな。出口ではETCを出せば精算できるらしい。

中央道は事故で渋滞して、5時間かかって松本ICまで来た。通行券とETCを渡すと、「車載機ですか?」と聞かれた。その先の安房トンネルの料金所でも同じことを聞かれたので、車載機とそうでない車では、料金を変えてくれているのかもしれない。

新穂高の、バス停の下の駐車場は3月までとのことで、スノーシェッド途中から行くP5という駐車場に停めることになっている。駐車場入り口より、奥の方が混んでいるなと思っていたら、出口が奥にあってその方が山に近いからだった。私同様それを知らない女性から、「奥からロープウェイに行けますか?」と聞かれて、「行けません」と答えてしまった。申し訳ありません。

準備して、自分はちゃっかり奥の出口から近道して出発した。本当に、申し訳ございません。

しばらくは、雪のない林道を歩く。林道が大きくヘアピンを描いて高度を上げると穂高平の小屋があり、その先から雪が出てきた。滑って降りてくる人もいたので、こちらも板を降ろしてシール登高を始めた。時々雪が切れるが、慎重に歩いて白出沢まで。白出沢から先は、明らかにスキーでは行けそうにないので担ぐ。山道出だしは雪のない夏道だったが、すぐに雪道になる。

ここから先、滝谷出合まで、沢を渡るたびに巨大デブリの乗り越えになる。デブリは、古いものから、「昨日ですか?」くらいの新しいものまで各種ある。新旧ともども、トレースは不明瞭となるので、歩きやすそうなところを進むしかない。デブリを渡り切って、対岸の上陸地点が見つけられないと時間がかかる。

靴は、今シーズン初めにポチったディナフット。K2ピナクルよりは格段に歩きやすいが、足に若干合わないので痛い。また、板を背負い、1泊分とは言え宿泊装備を担いで歩くこの区間はなかなかの苦行だった。たしか、滝谷を過ぎれば楽になるはずだったと、何べんもヤマレコマップを見て、「まだかな、まだかな」と歩いていた。こんな、楽しくもないのに、「なんで来ちゃうんだろう」と自問自答まで始めていた。それでも、「止めよう」と思わずに足を進めているのだから不思議だ。おそらく、登頂時の、あの一瞬の歓喜と興奮を味わいたいのだろう。

滝谷出合に着いたのは17時だった。もう、泊ってもいい時間だ。滝谷出合の避難小屋には、かつて3泊したことがある。入り口にはストックが一組落ちていて、中に誰かいるのかもしれない。

一応扉を開けてみたが、中は真っ暗。いや、泊るのは止めよう。前回このデブリ越えで苦労したではないか。明るい時間に通過するべきだ。

どこから、何時落ちてきたのだろう、という感じのデブリが山になっている滝谷出合を過ぎると、本谷沿いに進める箇所が多くなり、歩くのが楽になった。シールでも行けそうだったが、そのままツボ足で槍平まで行く。槍平の小屋が無人なら、小屋泊まりでもいいかと思っていたが、すでにテントが3張ある。という事は小屋には人がいるだろう。

小屋には寄らず、適当な間隔で立っている立ち木を見つけて、そこにツエルトを張った。

今回、1泊だし、泊るのが槍平という安全な場所だったので、いろいろ準備に手を抜いたのがここにきて発覚した。雪袋、バーナー台がなかった。テント用の履物もなかった。スキー靴で歩くようになってからの課題なのだが、スパッツが付けられないので、雪がブーツ内に入って足が濡れる。春だからまあいいかと放置しているが、日帰りなら良いが、泊りとなると不快だし、下手すると凍傷の恐れもある。最低でも替えの靴下があればそれを履いて眠れたし、翌日の朝イチの気分も変わったのだが。

雪はテント入り口からそのまま鍋に入れた。お目汚し失礼しました。

濡れた靴下を絞ってから、コンロで少し乾かした。靴下は2枚履きだったのだが、外側の靴下はもう回復不能なのであきらめた。やや生乾きになった靴下を抱いて、裸足の足はスコップ用の袋に入れてシュラフに入った。

寒くて眠れないのは予想していて、ラジオを持ってくるつもりだったのだが、買ったつもりだったラジオが発見できなかった。スマホの電波があればインターネットラジオが聴けるかと思ったが圏外だった。予想通り眠れなかった。

夜半に2度起き上がって、スープを沸かして飲んだ。その間、少し眠ったようだ。もう4月なのですごく寒いというわけではない。Bibyにファイントラックの夏用シュラフという組み合わせだが、Bibyが思いのほか結露しているという事が今回分かった。それにしても、ツエルトで眠れない問題はなんとか解決しなければならない。ラジオも探そう。

3時半に起きだして、4時半過ぎに出発した。生乾きの靴下を履いた足を、濡れたままのブーツにえいやと突っ込んだ。冷たいが、凍傷にはならないで済みそうだ。

夜半は月が明るく、ランプなしでも歩けるほどだったが、この時間だと月は沈んで暗かった。満点の星空である。

カリカリの雪面に、シール登高で進む。こんな固い雪で、結構な傾斜でも登れるもんだな、などと思っていると、ズルっと進めなくなるポイントが出てきた。滑りだすと止まらないし、急斜面では履き替えが困難になるので、早目にアイゼンに切り替えた。板を担いだが、宿泊装備をテントに置いてきたので、それほど重くない。

アイゼンを履いたら手にはピッケルでしょ、とピッケルを手に歩き始めたが、すぐにストックに持ち替えた。まあ、滑落することはないでしょう。


快晴の中、黙々と登った。なんでだか息が切れる。飛騨乗越近くになるとステップが切られていて、それを100歩しばりで息を整えつつ登る。顔に日が射してくると稜線は近い。8時、3時間半かけて飛騨沢を登り切った。


少し休憩して、板とストックを飛騨乗越の標識の裏に置いて、槍の穂に向かった。ここに置いていくのは、なんかカッコ悪い気がしたが、後続パーティーははるか下にいるのでまあいいだろう。だがしかし、槍の肩には人がいた。もっと早起きの人がいたのか。槍の肩に泊まりだったのかな。

板も背負っていないのに、槍の穂まではやけに疲れた。梯子を2つ登って登頂。

やっぱり来てよかった。やめられないだろうな。



さて、下りだ。今降りて行った人たちもいるし、下から後続が上がってくる。衆人注目のなかで、ソロ公演だが大丈夫か?

飛騨沢にはまだあまり日が当たっていない。ガリガリ君である。ビーコンは登りの時点でオンにしてあるし、飛騨乗越からは板を履いて滑り出すだけだ。どうかな。

コケずに慎重に斜滑降。斜滑降というより横滑りに近い。ありゃ?これは曲がれんぞ。

左にしばらく斜滑降してキックターン。右に行ってターンしてみるがコケる。

左に行った時、先ほど槍の肩から下りて行った2人組に声をかけ、彼らが落としていったらしいサーマレストのマットを渡す。随分感謝された。良いことをした。

カッコよくその場を離れていき、ずーっと右に斜滑降して離れる。その先でキックターンして左に戻ったが、思い切ってターンしてみると曲がれた。その先は、左右にターンしながら降りる。ターンというよりは、左右の横滑りを切り替える感じだが、ドリフト走行みたいで楽しい。

いきなり槍平。滑走中の画像を残す方法を真剣に考えよう。

槍平まで楽しく滑り、テントを撤収して先に進む。ここでルートを左岸側にとれば滝谷出合まで滑れたかもしれないが、槍平下の急斜面の所で滑るのをあきらめて担いだ。

ここから歩き

滝谷出合で水を汲んで補給し、前日苦労した道を白出沢出合まで。各所のデブリ横断は、下りの方が対岸の道が見つけやすく、あまり迷うことなく進めた。白出沢から穂高平まで林道ボブスレーで下り、そこからは林道をガッコガッコ歩いた。足が痛くなった。槍の穂の往復を不安なく歩けたので、この靴はすごく歩きやすいのだ。去年までのK2ピナクルではかなり困難だったろう。とくに、滝谷~白出沢間は本当の苦行になっただろう。しかし、足が痛いのは困る。日帰りならいいが、泊りの登山だと、履くのを躊躇してしまう。

駐車場に着き、帰宅の準備をしながらお湯を沸かして、車にあったアップ焼きそばをいただく。ETCが壊れているし、明日も仕事は入れてないし、下道で帰るとどうなるのか、マップさんに聞いてみると、川越街道で帰れという。面白そうだし、やってみるかな。

途中、波田の枝垂れ桜に立ち寄って、遠征中の奥さんに写真を送った。よく通る道だけど、桜の時期に来るのは初めてだったんだな。こんなきれいな桜があるなんて知らなかった。

 

 

高速道路利用だと松本から3時間だが、川越街道だと5時間だ。最後は秘密基地の近くを通って10時ごろ帰宅した。まあ、どこも渋滞していなかったので、時間はかかるが悪くない道だった。またやるかって言ったら、どうかな?