タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

芝倉沢へ

長い板で芝倉沢を滑ってきた。
芝倉沢は何回も行ったような気がするが、今回がまだ3回目なのかも知れない。初めて行った時、源頭部の雪庇の立ち方が衝撃的で、ずいぶん凄いところを滑っちゃったもんだぜ、と悦に入っていたが、F山にマチガ沢に比べたら屁みたいなもんだみたいな事を言われ、また他の山スキールートについて知るにつれ、芝倉沢は初〜中級の良いルートなんだなと思うようになった。

4月も終盤となり、雪のある山は少なくなった。北アルプスへ行けば間違いないが遠い。私の場合、前夜発では無理で、前夕発くらいの勢いがないと日帰りでは帰ってこれない。日帰りで無理なく行ける谷川岳も、ずいぶん雪が減った。そんな中で、芝倉沢は5月まで滑れるルートとして紹介されている。先週あたりに行かれた人のレポがヤマレコに挙げられていて、状態は良さそうだった。
過去2回はショートスキーで行っている芝倉沢を、長い板で滑れば、晴れて山スキーヤーの仲間入りが出来るかも知れない。
よし、芝倉沢に行こう。なるべく早く出て、下山後は秘密基地に寄って、愛車カリブのタイヤを夏用に交換しよう。

6時ごろ土合に着くと、ベースプラザ手前の平面駐車場が除雪されていて、進入禁止のロープ等はなくなっていた。停められるなら無料に越したことはないと、除雪された車室に停めたが、所々残っている雪をまだシャベルが動かすかも知れないと端っこに移動。いやいやここは地面がびしょびしょと、さらに奥に移動した。

停めている車は私を含めて2台のみ。素通りしてベースプラザに向う車両はちらほら。タダなのに、なんでみんな1000円払いに行くの?
周囲を見渡すと、当然の事ながら雪は消え始めている。以前4月に芝倉沢に来たとき、西黒尾根にはしばらく雪が出てこず、滑れるんだろうかと不安になったものだ。その不安はないが、西黒尾根にあまり雪がないのは間違いないので、スキーブーツは板にくっつけたままリュックに固定し、ハイキングシューズで行くことにした。ブーツの付いた板が両脇に付いたリュックは、チンドン屋さん的雰囲気を醸し出していて、正直なところ恥ずかしかった。こんなカッコで登るくらいなら、保険で持ってきている春山用登山靴で、サクッと西黒尾根を楽しんできたほうが良くね?とも思ったが、まあチンドン屋リュックを担いで歩き出した。
登山センターでカードを出して、除雪された車道を西黒尾根登山口まで行き、登山道に入ると50m(30m?)で雪が出てきた。これならスニーカーで良かったじゃん、と毒付きながらスキーブーツを外して履き替えた。これでチンドン屋状態は解消された。
ツリーホールが大きくなる中、雪のある場所を選んで直登していくと、鉄塔より先で西黒尾根に上がった。尾根はほぼ雪尾根になっていて、キックステップで上がっていける。天気は高曇り。東京は夏日の予報だが、雪崩が怖いのであまり照らないでくれたほうがありがたい。
この靴(スキーブーツ)で登るにあたって、核心部になると思っていたラクダのコブに着いた。しっかりと鎖が出ている。いつものようにアイゼン無しで取り付く。非常に歩きづらいがなんとか登れる。下れるかって言ったらどうだろう?敗退〜下降は困難を極めるような気がする。

トマの耳とオキの耳


ラクダのコブ付近の、雪がない箇所は短かったのでなんとかなった。その先、ザンゲ岩付近でも岩場を通るポイントがあり、ちょっと苦労する。そんなんでトマの耳到着は、出発してから3時間半の10時。板は重いし、歩きづらいしで3時間半なら及第点だろう。
オキの耳を越えて一ノ倉岳を目指す。夏道が出ていて雪はない。なんでもない登山道だが、スキーブーツで苦労しながら小岩を越えていると、男女のカップルがカロヤカに抜いていった。しばらく、ガコガコ歩いていたが、一ノ倉岳まで見通しても雪は無さそうだし、このままではどれだけ時間がかかるかわからないので、靴を履き替えた。再びチンドン屋になった。スニーカーじゃなくて良かった。



この事態は少し予想していて、靴下の替えを持とうかなと思っていたが、持ってきていなかった。ハイキングシューズはoutdryと書いてあるが、購入時から防水性は低く、もうボロいので湿れば濡れる程だ。雪山で靴下を濡らすということは致命的だと教えられてきたが、夏日予報の日なのでなんとかなるだろう。それでも、あちらこちらで雪が残っている箇所を通るときは気を使った。なるべく濡らさないように、スパッツがないので、雪が靴に入らないように。しかし、最低鞍部に下る所からは雪道になった。先行しているカップルのトレースがないと大変だっただろう。これで、靴内がタプタプいうほど濡れた。天気も下り坂で周囲はいつの間にかガスで覆われていた。さっきまでのルンルン春山はどこへ行ってしまったのだろう。
一ノ倉岳への急登は雪はなかったが、消耗しているのか足が攣った。右のもも、左のハムが攣っているのをごまかしながら山頂に着いた。カップルがササにマットを敷いてくつろいでいた。マネして、少し先の笹薮にリュックを降ろして座り込む。ヤレヤレ。
靴を脱いで、靴下を絞って履き替える。食料を補給し、板を降ろし、ストックを120cmに合わせる。カッパの上下を着て、ビーコンを送信に切り替える。時刻は12時になっていた。エントリー予定時刻だが、足の攣りが回復していないので少しマッサージを続けてみた。天気はどんどん悪くなって行くようだ。そろそろ行ったほうが良さそうだ。
雪庇が垂直に立っているので、エントリーしやすいポイントを探しつつ茂倉岳方面に向う。程なく、雪庇が緩くなっている箇所があり、そこで板を履く。横滑りでエントリー。視界は30mのホワイトアウトである。
記憶では、メインスロープのカールは茂倉岳に向かって開いていて、一ノ倉岳から滑るとブッシュにブチ当たる。前回はブッシュを藪漕ぎして越えてカールに出たと思う。ホワイトアウトで見えないので、なるべく高度を下げないように茂倉岳方面に斜滑降して、出来ればブッシュの上を越えたかったが、やはりブッシュにブチ当たった。
前回まではショートスキーだったので、気軽に板を外せたし、板のままでも藪漕ぎが出来た。それに、ブッシュの先が見えていたと思う。今回は長い板だし、先は全く見えない。キックターン+斜滑降で、ジリジリと高度を下げた方が得策だろう。
このブッシュと、一ノ倉岳側のブッシュを2度ほど斜滑降で行ったり来たりすると、最初のブッシュの下端が見えてきた。その下を通って先に行くとデブリが出てきて、GPSで確認するとここがボトムだった。芝倉沢の醍醐味は、稜線からノドに向かってすり鉢状の斜面を滑り降りるところだと思うが、ホワイトアウトではどうしようもない。
しかし、その高度まで降りてくるとガスの下に出たようで、視界が開けてきた。しばらくはデブリは見えない。雪の状態は締まったザラメといった感じで、簡単にターン出来る。右へ左へターンしながら楽しく滑った。左右の岩壁にあったであろうスノーブロックは大体落ちきったようだ。

振り返る

途中2回、デブリがあり板を外した。右岸の台地に滑り込むと、ヤマレコにあったとおり、木が激しく折れていた。泡雪崩のような強力な雪崩が起きたのかも知れない。湯桧曽川に出ても木が折れている。各所で大規模な雪崩があったのだろう。それにしてもすさまじい威力だ。

木が真横

 

湯桧曽川沿いは雪が繋がっていて、クロカンで漕いで行ける。幽ノ沢は伏流、一ノ倉沢は丸く雪が割れて流れが見えていて、そこで水を汲んで飲んだ。マチガ沢は渡渉したが、渡渉より前後の河原に苦労した。今回の山行では、スキーブーツでの歩行問題が顕在化してきた。今シーズン西黒尾根は4回目で、このブーツでは3回目になる。2月も3月も雪があったので苦労はしなかった。3月にオジカ沢ノ頭に向かった時も、歩きづらいとは思ったが、適当に雪があったので、今回ほどではなかった。普通の?ツアーブーツというのはもっと歩けるものなのだろうか。
芝倉沢は楽しかったが、雪のない箇所の歩行を思うと、また来る気が半減してしまう。対策としては、①コフラックで滑れるように①−Aばっくるんを完成させる①−B上手くなる、②ツアーブーツを買い替える、だが、一番現実的なのは①−Aかな?
もう一手として、昔挫折したテレマークをやってみるというのがある。いま持っている、ロッテフェラーが付いている板は細くて長い、歩くためのモデルなので、カービングなりロッカーなりの広い板を中古で買って、ビンディングを移植するという作戦である。靴は革靴で歩きやすいのでどこでも歩ける。テレマークカモシカにいたヨウコちゃんが、「絶対アルペンよりいい」と力説していた。滑りやすい今の板なら、なんとかなるかも知れない。シーズン終了の今頃から、ヤフオクには板やブーツが出てくるが、ヤフオクは面倒だな。逆にリサイクルショップからはスキー用品は消えちゃうんだよね。
マチガ沢を過ぎた先で、板を外しているのでキックステップで河原を離れて台地に上がった。そっちが正解かと思ったら違って、100mくらいで行き詰まった。再び板を外して河原に降りて、少し進むと夏道が右岸に上がって行っている。ここでクロカンは諦め、板をリュックに担いだ。
歩いて駐車場に戻ると、駐車車両は増えていたが、それでも数台である。天気の割に天神尾根の人影は少ないようだったが、数人という事ではなかった。みんな有料に停めるんだな。

時間は15時。朝のお湯でカレーメシを食べて、いつものコンビニには寄らずに秘密基地へ行く。なんとかタイヤを4本交換できた。

いい週末になった。