タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

赤谷川から土樽へ

このところ気分が晴れないのはあの戦争のせいだ。週末の山の計画を考えるのは本来楽しい事なのだが、こんなことしてていいの?と考えてしまう自分がいる。日本の一般市民である我々に出来ることは限られている。まずは寄付だが、それよりもロシア大使館の前に行って、おそらくたくさんいるであろう抗議の人達に混ざって、シュプレヒコールをあげるべきなのではないだろうか、山には行かずに。

津田沼の現場にどうでもいいような用事で行って、駅前のビルにあるユザワヤに寄った。水色と黄色のサテンのテープを買った。それをリボンにして、まずはリュックサックに結わいた。そのうち車にも付けるつもりだ。全く、なんの役にも立たないが、あの国の人達に思いを寄せているという自分への証だ。

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フレデリックフォーサイスの小説「悪魔の選択」のテロリストはウクライナ人だった。ソ連からのウクライナ独立を目指して、最後は「ウクライナよ永遠なれ」と叫びながら炎の中で死んでいく。ショーンコネリーが演じた「レッドオクトーバーを追え」のラミウス館長もウクライナ人だ。ウクライナソ連やロシアからどのような扱いを受けていたかは、西側諸国の人々もよく知っていた訳だ。

 

リボンをつけたザックで、再び西黒尾根を登った。

今週末は槍ヶ岳のつもりだった。土日とも奥さんが推し活で不在だ。金曜夜行で出るそうなので、便乗してこちらも夜行しちゃおう。しかしまたもやヤマテンが大荒れ情報を出してくれた。確かに今回は荒れそうだった。槍ヶ岳は諦め、行けそうな山域を探っていたら、週末近くなって谷川岳方面の予報が良くなってきた。

西黒尾根は今シーズン2回登っており、ちょっと飽きた感があったが、赤谷川から万太郎山のコースはやっておきたかったので、今週末にブチ込んだ。

時間のかかるコースなので、暗いうちから始めよう。槍ヶ岳のように夜行ってそのまま始めちゃうのも悪くない。いやそれだと夜明け前に山頂通過となり、アイスバーン赤谷川に飛び込む事になる、というより、板が長いんだから速いだろう。ちょっと早朝なら十分だろう。

前夜に行って、車で寝るのは好きではない。ロープウェイ駅の駐車場は、6階のカーペットで仮眠できるという未確認情報があり、是非とも確認したかったのだが、ガセだと寒い車内で寝ることになるので、2時に家を出るのを目標に布団に入った。

家を2時20分に出て、土合に着いたのが5時前。ほぼパッキングしてあったので出発は5時25分となった。気温は高め。カッパの上は着ず、手袋はl薄目のネオプレーンで寒さを感じない。ヘッドランプは鉄塔に着く頃不要となった。

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トレースはしっかりあり、もう春山の雪になっていた。前回が2週前だが、劇的な違いだ。単純に雪の階段を登るだけになっている。私は今期3回目の西黒尾根だが、2週間前のラッセル仲間の皆さんは、ほとんど皆1回しか来ないだろうから、春に来たほうが楽しいよと教えてあげたい。

山頂までは3時間20分かかった。春山での自己ベストは2時間20分だから1時間オーヴァーだ。板が重いのと、靴が歩きにくいのと、体力が落ちた為だろう。ただ、9時前到着は初めてで、この先長いので、貯金が出来たことは喜ばしい

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前回の記憶では、とにかく赤谷川の滑降で、谷底の移動が滑らないスキーの為に時間がかかり、なかなか万太郎の登りに入れなかったのが、印象として強く残っている。オジカ沢ノ頭周辺でアイゼンかバイルを使った記憶もあるが、稜線で苦労した記憶はなかった。それなのに、オジカ沢ノ頭になかなか着けない。偽ピークが次から次へと出てくる山だと初めて知った。トマの耳から1時間20分かかってオジカ沢ノ頭。山頂周辺はエビの尻尾で覆われている。徒歩で下降し、エビがいなくなった辺りで滑走準備。傾斜もゆるく、雪崩の心配もなさそう。しかし、心拍が上がるのがわかる。

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谷底に向けて伸びる小尾根があり、これを狙うのが安全そうだ。得意の斜滑降でそちらに向けて高度を下げる。小尾根の末端は急斜面であることがわかり、右岸側にコース変更。急斜面を回避した後谷を横断し左岸へ。谷底は傾斜がなく、逆に登りになっている箇所もあるので、左岸で高度を維持しながら斜滑降を続ける。

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正面右の尾根を登る

進行方向に、万太郎に登る尾根が見える。前2回とも、登り始め地点につくまでどの尾根だか分からず、1回目は違う尾根を登って苦労した。板が(そして靴が)違うと余裕が出来たのだろうか。左岸が崖になり右岸に移る。谷底に穴状の凹地があり、前回は通過に苦労したが、今回はルート取りに頭を使って切り抜けた。かえって楽しいくらいだ。

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前回はこの穴が怖かった

オジカ沢ノ頭から1時間ほど、11時20分に登り返し地点に着いた。尾根に登るウサギの足跡がある。大佐、お導きありがとうございます。

山スキー百山にある通り、左側に回り込んで登りだす。急な尾根にジグを切って登って行くと30分ほどで顕著な尾根に出た。正面に万太郎山が聳えているが遠くはない。2時間はかかるまい。

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尾根に出て振り返る

シールを効かせて快適に高度を稼ぎ、尾根が山塊に吸収される辺りまで来た。右に主稜線と思われる尾根が近づいていて、そちらはエビのしっぽで覆われているので、雪のいいところを狙ってシール登高を続けるが、アイスバーンでシールが聞かない箇所が出てきた。その度にジグを切って進んだが、もうどうにもならなくなり、右の尾根に逃げた。

この尾根は主稜線ではなかった。ずっと右に主稜線が見えた。尾根はエビのしっぽでシールは使えない。仕方なく板を担いだ。エビのしっぽは踏み抜き天国でほぼラッセルだ。もうすぐと思っていたのに山頂がなかなか近づかない。疲労も蓄積し、立ち止まる時間が増えてきた。

再びシールが使える雪になり板を履く。ズルをしてヤマレコマップを見ると山頂まで300m。あと100mかという所で傾斜がきつくなり板を担ぐ。最後は雪壁となり頂稜に飛び出した。前回この尾根でこんなに苦労しただろうか。山頂標識を前に思わず雄叫びを上げるほど登頂が嬉しかった。

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山頂からドロップ

ここからはよく覚えている。下に見える台地に直接向かうと崖になるのだ。それを右に逃げると戻れなくなり、デブリだらけの谷を降るハメになる。前回は崖まで歩いて降りてから滑った。今回は板も靴も違うので山頂からドロップした。

ドロップと言っても仙ノ倉山側の稜線伝いに高度を下げる。コルの手前からエビラの斜面に突入。行けそうなところを狙って高度を下げてなんとか崖下の大斜面に出た。ここまでくれば安心だ。

雪は重パウ。斜面が広いのでほとんどターンの必要はない。無理くり曲がる感じだがなんとか曲がれる。時々コケるがギャラリーはいないので問題なし。とは言っても、マトモに曲がれないのは問題だ。今季は山ではスキーをしているが、ゲレンデでの練習は川場での1本だけだ。

台地から、山スキー百山では右の谷を下れとあるが、早く安全地帯に逃げ込みたいので尾根状から樹林帯の急斜面を毛渡沢に向かって降りた。気温が上がり、各所で小規模な雪崩が起きていた。直撃食らっても大丈夫そうな規模だが、一応気を使いながら高度を下げて、毛渡沢にあるスキートラックに合流した。ヤレヤレ。

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この時点で14時半。出発から9時間かかっている。前回は9時間で土樽駅まで行ったので、長い板ではだいぶ時間がかかった事になる。なんか残念だが仕方ない。板は重いし靴は歩きづらいのだ。楽しい山スキーでは、板は担がないのが基本なのだろう。

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高速の高架下で板を脱ぐ

群大ヒュッテの橋のところで電波が取れたので、土樽駅の時刻表を見ると17時台から1時間に1本電車があるようだった。17時に間に合うか微妙で、それなりに頑張ったが無理だった。快晴だった天気は予報通り崩れ、雨の中の林道クロカンとなった。高速道路の高架下で舗装路に出て、雨の中のトボトボと駅に向かった。肩が痛く、歩荷訓練が必要なのかと思ったりした。土合駅からは、スキーは腕に抱えて駐車場まで行ったが、そのほうが楽だった。

ともあれ、今シーズン初の計画完遂だ。素直に喜ぼうではないか。しかし正直なところ、楽しかったのはショートスキーで行った前回の方だ。長い板にこだわるのはやめるべきか。

担がないで済むところのみ、長い板で行こうかな。そしたら谷川岳は全滅だが。