タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

鹿島槍ヶ岳鎌尾根

鹿島槍ヶ岳の鎌尾根に行った。
GWの当初計画のひとつ、勝負系の方は黒部横断で、鹿島槍ヶ岳から鹿島ウラ沢をスキーで下り、黒部川に出て横断・・・という計画だったので、GWの前に偵察として鹿島槍には行こうと思っていて、登路は鎌尾根と考えていた。ネットで検索すると、鎌尾根にはさしたる悪場はなく、最後の雪庇突破がハイライトということだった。スキーを背負って登り、布引沢を滑降している記録もある。コレだな。
結局GW計画は潰えて、日帰り山行となってしまったが、ここで鎌尾根に行くことにした。潰える前に、黒部横断は日程的に無理だとわかり、のんびり系計画の栂海新道計画が採用されていたので、アイゼンは春用スカルパに合わせてあり、クマさん(ショートスキー)はソフトブーツ仕様でフロントバックルが外してあった。まあ、いろいろ言い訳があるわけだ。
朝の2時起床で、少し寝坊して2時40分に家を出た。ほぼ休まず走り、6時過ぎに大谷原の駐車場に到着。過去の反省から、ほぼパッキングはしてあったので6時30分には歩き出した。
大谷原の駐車場は、過去5回ほど来たことがあるはずだが、全く記憶がなかった。一番古い記憶は、社会人1年の時、まだ在学中のSや、T先輩、Kの4人で、怪走レオーネで正月休みにやってきて、Sと二人で赤岩尾根から鹿島槍を往復した時だ。たぶん、駐車場にテントを張って、ワイワイやっていたのだと思う。今は赤岩尾根に取りつくには、堰堤のトンネルを潜るなど、いろいろ面倒なことがあるが、何も苦労せずに取りついた。ガスで視界のない中、山頂まで行ったが、山頂標識は確認しておらず、疑惑の登頂といわれている。
我々が鹿島槍に行った日は、KとT先輩はなぜか停滞したのだが、翌日発奮して爺ヶ岳を往復してきた。東尾根を行ったのか、赤岩尾根から行ったのか、暗くなってから帰ってきたような記憶がある。
ヤマレコで予習していた通り、西沢出合では堰堤にトンネルがあり、それを潜って対岸に出て、さらに北俣を詰める。いくつか目の堰堤に鉄梯子が打ってあって、それを越えると谷が大きく開けて、正面に北俣本谷が見える。その左側のブッシュ帯が鎌尾根の取付きのようだ。

トンネルを潜って対岸に渡る

正面左のこんもりが鎌尾根取付き

 

北俣本谷に少し入って、左上して鎌尾根に取りつく。アイゼン2人分のトレースがある。比較的新しいが、春山ではラッセルは負担になりにくいので、追いつかないかもしれないな、と思っていると、2000mくらいで敗退していた。やや、稜線の雪にクラックが入っている箇所だったが、これでビビったわけではあるまい。なにか事情があったのだろう。
お陰様で、うれしい初トレースになった。人気ルートらしいし、出発が遅かったので、初トレースは期待していなかった。予期せぬプレゼントをもらった気分だ。
後続に、ソロの人がいるようだが、ほぼ貸し切りである。
途中、稜線の雪にクラックが入っている箇所で、急雪壁が生じている。数ステップのムーブだが、この傾斜が10mも続くと辛いな。そんな所を2か所ほど越えると、両側の雪が崩れ落ちて、危なっかしいナイフリッジを形成している所に出た。え?これ行けるの?
敗退か?と考えがよぎったが、オーバーハングしていない布引沢側を、正対トラバースして切り抜けた。ちなみに写真はない。ブログやってんだから撮れよ。
その先で、同じようなナイフリッジが再び登場。こっちの方が長いが、さっきので経験値を付けたのであっさり通過した。どちらかといえば、最初の方が怖かった。
そして、高度2500mあたり、スノーブロックが派手に崩壊して、稜線が出ている箇所に出た。崩壊面の正面はオーバーハングしていて無理っぽいが、左端に2m程度の段差で、ギリギリ垂直という所があり、ここが狙い目と判断した。

左端が狙い目だが


草付きから岩場を、アイゼンをガリガリ言わせながら登り、雪壁まで行ってみたが垂直、2mほどだ。ボルダームーブっぽく越えられるかも知れないが、失敗すると岩場から草付きまで7~8mほど墜落する。たぶんケガをして、行動不能になるだろう。どうする?
一旦下り、リュックを降ろして、空身でステップを切ってみてはどうだろうと、ピッケルだけ持って再トライしてみた。一歩だけ蹴りこんでみたが、踏ん切りがつかない。


どうする?敗退か?


敗退となると、この手前の急雪壁と、その下のナイフリッジも下降することになるかもしれない。布引沢に逃げられるとは思うが。
登れるところは下れる、と思っているので、生きて帰る自信はあるが、やりたくはない。
それより、この晴天下で敗退となると、「鎌尾根すら登れない奴」ということになってしまう。それがあまりにも悔しい。
後続のソロの人も登れずに困るだろう。ロープ持ってそうだったら、即製パーティー結成を打診しようかなとか思ったが、はるか下にいるようで動かない。
ダメだな、敗退か。そう決めたらじっくり降りよう。とクライムダウンを開始した。雪壁手前で逡巡しているころから、布引沢を登るスキーヤーが見えていた。あのまま稜線まで行くのだろうか。何か、いいことがあるかもしれないと、急雪壁を一段下った後、布引沢に向かって下降し始めた。スキーヤーは二人いて、登高ペースや体格から、後ろは女性だろうと思った。スケベなので、トップとセカンドの間に降りて、お姉さんの方に挨拶した。
「滑らないんですか?」と聞かれ、返答になっていないが、鎌尾根の稜線が通れないので降りてきた旨を伝えた。このまま稜線まで行くんですかと聞くと、事も無げに「そうです」と言われた。
トップの男性は無茶苦茶速い。かなりの急傾斜だが、シールでどんどん上がっていく。その後を必死にステップを切って登る。お姉さんはジグを切りながら、ほぼ同じペースで登ってくる。
徐々に右にコースを取り、鎌尾根に乗り上げる。もう息が上がって、100歩しばりで頑張るが、いつしかお姉さんに抜かれる。山で、女性に抜かれるのは、最後に出たハセツネで、野間さんに抜かれた以来だ。関係ないが、あの見事な鼻筋から、野間さんは魔女だと勝手に思っている。

ジグを切るおねえさん


抜かれちゃったので、一息ついて景色を堪能すると、爺ヶ岳方面に彩雲が出ていた。「彩雲だ」とお姉さんに伝えたが、熱血BCスキーヤーは気象現象には興味が無いようだった。



13時半に、稜線に飛び出した。稜線の雪庇は、トップの男性が、両スキーを外して、左右に立てながら、時間をかけて切り崩していた。すみません。そこくらいは貢献したかったのですが。
てっきり、彼らはここから滑って帰るものだと思っていたので、こっそり板をデポして、山頂を往復しようと思っていた。稜線は風があって寒いので、ミッドレイヤーとカッパを着込むついでに、板をリュックから外して、道脇に置いていたら、お二人がリュックに板を付けて山頂に向けて歩き出した。
そうだよな、ズルしちゃダメだよな。と板を付けなおして彼らを追った。夏道が出ているので、アイゼンも外したが、スキー靴の彼らに追いつけない。
山頂に到着。あの雪壁を後にしたときは、山頂まで来れるとは思っていなかった。嬉しい。

山頂に着いた

板を背負って山頂まで来ているので、北俣本谷でも滑るのかと思ったら、黒部側を一本落としてから、登り返して布引沢を滑るという。本当に山スキーヤーという人種は、どこまで体力があるのだろう。
黒部川に向かってシュプールを刻む彼らを横目に、てくてくと下降点に戻る。まずは歩いて降りるしかない傾斜だ。ストックをピッケルに持ち替え、後ろ向きで降りる。できれば、彼らが戻る前に、降りてしまいたい。ぶざまにターンしている所を見られるのは嫌だ。
鎌尾根に乗り上げた辺りから傾斜が緩くなる。ここで、板を履いて滑り出すが、稜線は新雪で、短い板が潜って滑れない。稜線部分はカニ歩きで下り、布引沢の斜面に斜滑降で入ると、小規模な雪崩が起きる。斜滑降とキックターンを2セットやって、すげえ疲れた。この春靴とクマさんの組み合わせで、白馬大雪渓を滑れたはずだが、布引沢の傾斜は無理だ。キックステップで、傾斜が緩くなるまで下ろう。今回の登頂は非常にラッキーだった。せっかくの幸運を、スキーで無理して足を捻るとかで無駄にしたくない。
アイゼンは履かず、ストックをピッケルに持ち替えて下る。このくだり方だと、スキーより速いくらいだし、実際、自分のスキー速度だと、歩いた方が速い。傾斜が緩くなったらと考えていたが、だんだんデブリも増えてきて、滑り出しのタイミングが計れないうちに、上部に二人の姿が見えた。この、デブリだらけの中を、どう滑るのだろうと思っていると、あっという間にすぐ横の鎌尾根側の斜面まで降りてきた。すげえ。
そこからはデブリ帯なので、板を外すとかしたのだろう。次にお見掛けしたのは、本谷が合流した後の緩傾斜地帯だった。この悪雪の中、見事なパラレルターンで私に手を振りながら去っていった。ゲレンデに行くと、素晴らしいテクニックで滑る人を見かけるが、そんな人たちよりこの二人の方が上手かった。たぶん、すごい人たちなんだな。
鉄梯子のある堰堤で奥さんに下山報告。ここから車まで1時間はかかるので、早めに安心させておこう。

板はウエイト

 

てくてくと林道を歩きながら、なんとなく顔が緩む。「楽しかったな」
スキーが出来ないとか、本当に鎌尾根完登なの?とか問題はあるが、急雪壁やナイフリッジにテクニックを駆使して挑めたのが楽しかったのだろう。やっぱり雪稜はいいな。スキーが無くても十分楽しめるのに、なんでこの重しを持ってくるのだろう。今回は、靴が春靴じゃなくて、コフラックなら話は違っていたかもしれない。その組み合わせで、1月に谷川滑ったもんな。
なんて、言い訳が出てくるから、次も板を持ってきちゃうのだろう。今回GWは板持って栂海新道だったが、行っていたら板歩荷だったと思う。


ちなみに、鹿島ウラ沢は下れる感じではなかった。横断するなら牛首下降ですな。