タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

屏風尾根からスバリ。針ノ木には届かず。

結局夜には出られなかった。いつものように11時に寝て、3時には出たかったので2時半に目覚ましをかけたが鳴る前に目が覚めた。2時50分に自宅を離れた。

TMGEのラストライブを大音量で聞きながら車を走らせ、扇沢に6時過ぎに着いた。乗鞍より近い感じだ。無料駐車場は満車のようで、バス停すぐ下の有料駐車場に停めた。12時間1000円で、過ぎれば追加料金だが24時間出庫可能とのことだ。

コロナなので、駐車場からいきなり始められるところを考えてここになった。白馬は、猿倉の駐車場がだめなら八方からバスだし、穂高方面も沢渡バスだ。針ノ木谷は以前春分の日の連休に、黒部横断を企んで失敗したときにショートスキーで途中まで行ったことがあって、雪のある時期はそれ以来の見参となった。

今回のテーマは、シール加工とビンディング移植を行った板に、山靴コフラックと足首固定具の組み合わせの確認だが、それ以前に冬の間恋焦がれていた雪の北アルプスを楽しむということにある。とうとう、来れたのがシーズン最終盤となってしまった。

シールの具合を見るためには針ノ木谷をそのままシール登高すればいいのだが、前日までの積雪で谷は大変なことになっていると予想された。午後も遅い時間になればいくらかは落ち着くだろうと考え、下降のみ針ノ木谷として、登りは尾根ルートを選択した。屏風尾根は、過去のヤマレコの記事などから、特に悪場のない尾根で、スキーを担いで登るのには最適なように思えた。

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扇沢有料駐車場。無料駐車場は満車だった。

登山口に山岳相談所のテントがあり、そこで登山カードに記入して入山。すぐに雪が出てきた。右岸に渡るあたりからはつながっていて、そのあたりからシールに変える人も多いようだ。尾根に取付くとシールは使えないのでそのまま行く。大沢小屋が見えるあたりで左岸に渡り正面の屏風尾根に取付く。真正面は樹林が濃いので右側から回り込んだ。登りやすいところを選んで登り、最後は小ルンゼを横断する形になった。この時期でなければちょっと嫌なところだ。そこを登りきると尾根上に出た。尾根はヤブもなく登り易そうだ。

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大佐が引っ張ってくれるかな?

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尾根に出たところ

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膝まで潜る。

GWの雪山にしては雪が深かった。基本キックステップだが、大体は膝まで潜るのでラッセルに近かった。急傾斜の段差では、ピッケルを横にして新雪を書き落としてステップを刻んだ。やっているうちに夢中になっていた。やっぱり俺は雪稜が好きなんだ。

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鹿島槍ヶ岳方面

楽しいはずが、何故かウキウキという感じではなかった。帰ってからの分析だが、その後の下降のことが気になっていたのだろうと思われる。尾根に取付く前に針ノ木谷の奥の方が見えたが、「はい、僕は今朝落ちてきました!」と言わんばかりの真新しいデブリが谷を埋め尽くしていた。それでなくても下手っぴいで、さらにこの靴と板の組み合わせは初めて、そして雪崩への恐怖である。最近読んだ雪崩の本には、GW期間中の雪崩事故について多くの事例があげられていたし、ヤマレコでマヤクボ沢を検索すると、最上部で200m流された話が出てきた。そこを、降雪翌日に下るのだ。

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デブリを横断する人々

同ルート下降を考慮に入れて進んでいた。下降できない難所が出てきたら、引き返すことも考えていた。すぐ右の赤沢の下降も考えた。最上部だけこなせば本流は快適な緩斜面のようだった。ただ、最上部はいつ崩れてもおかしくない状態な気がした。

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大分上がってきた

お昼すぎ、尾根に取付いてから4時間で後立山の稜線に出た。眼下に黒部湖が見える。剣岳と赤沢の猫の耳が重なって見える。やった。コロナで自粛だけれど、ここに来ることが出来た。黒部に来ることが出来た。

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稜線に出た

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黒部湖

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剱岳と赤沢猫の耳

5月中旬に同ルートをたどる記事をWEBで見てきていて、その方の時はもう稜線は雪がなかったそうだ。そのため、雪はあるにしてもほぼ夏道は出ているだろうと考えていたがそうではなかった。夏道がどこだかうっすらわかる程度で、新雪のため踏み抜き天国となっていた。まったく歩みが遅かった。

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これからスバリを目指す

当初計画では屏風尾根は3時間で、終了点からマヤクボのコルまで1時間と踏んでいた。この時点で屏風尾根に4時間かかっており、あまり進みが遅ければ尾根を引き返した方が良さそうだった。マヤクボのコルに14時に着けそうもなければ、屏風尾根に戻ろうと、13時に判断することにしてスバリ岳を目指した。

稜線の道は、踏み抜きパートと快適パートが交互に現れ、進むときは行くし、そうでないところは難儀した。13時になり、位置確認したところ14時コル着は楽勝に思えたので、もう迷わずマヤクボを目指すことにする。しかし、スバリの登りに入り傾斜が増すと、疲労も加わってペースがガクンと落ちたらしい。

スバリの頂上だろう、という所に向かって、急雪壁を快適に登っていた。急雪壁を登りきると、その先の短いミックス壁の上がピークのようだった。スバリには小スバリというのがあるのは帰ってから知ったのだが、目の前のピークのほかに、針ノ木側に次のピークがあった。どちらが本スバリか、この時は分からなかった。 

雪壁を登って息が切れた。呼吸を整えて時計を見るともう14時を過ぎていた。いかん、急がねば。急いでミックス壁に取付くが、RCCでⅣ級くらいで、無理して登らなくてもいいと判断した。次のが本スバリかもしれないし。稜線を先に進むと、その次のピークは踏まないようだった。振り返ると先ほどの行かなかったピークに標識が立っている。あれが本スバリだったのか。

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振り返ると山頂標識が

14時40分ごろマヤクボのコルに着いた。ここから針ノ木山頂までは距離も標高差も200~300m。通常なら往復するところだが、もう時間が押している。ちょっと悩んだが諦めることにした。ここまで約1㎞を2時間半かかったのだ。往復に1時間かけてしまうとアイスバーンで下れなくなる。

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マヤクボのコル。ここから針ノ木岳まで300mだが

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今回は見送り

スキーブーツの足首部分を流用した、山靴用足首固定具(そのうち名前を付けよう)をザックから出し、足首に着ける。左はちゃんとついたが、右がつけられない。制作時は左だけ試着して、右は同じ長さでインシュロックを付けたのが悪かった。微妙なところで合わないらしい。そのため、右足の固定は少し甘くなったが今更しょうがない。ビーコンをONにし、カッパも上下着た。ピッケルをしまい、ストックを伸ばす。準備でやることが結構ある。

マヤクボ沢は雪崩の心配はないように見えた。屏風尾根から、マヤクボカール付近に見えたデブリのようなものは、実はブッシュと露岩で、カール内の積雪量は少ない。雪質は軽いモナカ。すごい上手いチームが山頂からドロップし、見事なシュプールを描くのを横目に斜滑降。広いカールなので、斜滑降一発で底まで降りられる。うまいチームはラインをよく知っていて、一番左側のバーンに入ってガンガン滑っている。真ん中のバーンに入った私は、露岩のある滑りにくいところで斜滑降とキックターンを繰りかえす。途中二度ほど露岩に乗り上げる音がした。ごめんねトラちゃん(←板の名前)。

そのバーンの下は緩傾斜地帯となって、更に下のノド状の谷筋がデブリランドだった。屏風尾根から見えた、デブリトラバース地点だ。デブリは左岸からのもので、右岸側の斜面を斜滑降で進むが、そこにも右岸からの小規模なデブリがあって滑りにくい。上手いチームはどんどん離れていってもう安全地帯で和んでいるようだった。途中、彼らのシュプールデブリで埋まっている所に出くわした。ということは、彼らが抜けたあとに雪崩が襲ったということだ。お互い、危機一髪だったということか。

新しいデブリではもう滑れない。板を外して歩いてデブリを抜けた。上手いチームは下り始めた。随分長い休憩だったようだ。ひょっとすると後続の下手クソが巻き込まれていない事を確認してくれたのかも知れない。

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安全地帯まで来て振り返る

彼らの休憩スポットまで降りてほっと一息。安全地帯まで降りたことをメールしようとしたが圏外だった。そこから堰堤を2つ越えた所で板を外した。

扇沢駐車場に戻り上手いチー厶を探したが不発だった。待ってくれていたのならお礼を言いたかった。

 

コロナと天候不順のGWの最後に、なかなか充実した山行が出来た。課題は色々あったので以下箇条書きで。

  • ラッセルになった時点で手袋を防水の物に替えるべきだった。結果として予備が無くなり、おまけに干すと称してスキーにつけて歩き、最終的に紛失した。
  • 新しい装備は一度試着する。右の足首固定具が本番で装着出来なかった。
  • トラちゃんは流れ止めがないので次回までにつけておく。
  • スパッツは廃棄して新品に替える。

スキー技術はまだまだだ。同じ斜面なのに他パーティーは皆上手かった。スキーでの下降に不安がなければ、登っている時の気分も変わっただろう。体力面でも、スバリの登りでは結構へばったのでさらにトレーニングが必要だ。

 

鍼を打ってから最初の運動だったが、右足を上げるときのストレスが軽減されているので、効いていると言える。ただ、今回頑張ったので下山後は張りが強い。翌日信号で少し走ったが、走った感じは施術前と変わらない。変わらないが、就寝前のストレッチで激痛が走ることはなくなった。

 

雪山シーズンはこれでおしまい。夏の間、トレランで体力をつけて来シーズンに臨みたいものだ。

 

NOTE

屏風尾根からマヤクボ沢下降

2021年5月4日

7:00 扇沢

8:00 大沢小屋(屏風尾根取付き)

10:20 2200ピーク

12:10 稜線

14:15 スバリ岳(横を通過)

14:40 マヤクボのコル

15:00 エントリー

16:00 大沢小屋付近

16:40 扇沢

コフラックプラブーツ、ビネッサ2000、トラちゃん