タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

憧れの、阿弥陀岳南陵

山登りを始めたきっかけは、中2のときに行った八ヶ岳だったから、この山域には思い入れがあった。そんな中で阿弥陀岳南陵は憧れのルートだった。当時はバリエーションルートという呼び方はなく、ガイドブックには上級者向けルートと紹介されていたと思う。1日では登れず、「青ナギ」という所で稜線ビバークが必要というのも魅力だった。青ナギ、ミステリアスではないか。どんな所だろう。

 

高校生の頃は技量がなかったし、そっちに行くバスはなかったので、登山口まで行くのも大変だった。そのため、憧れのままになっていた。

 

40年の歳月が流れ、装備は軽くなり、このルートも日帰りが標準となった。そして、この先何年雪山に行けるだろうか、という時期を迎えた。こういう場所は訪ねておくべきだろう。

 

 

3時起床で3時20分には家を出た。以前、日帰りで旭岳東稜を試みて、見事に時間切れの取付き敗退となった痛い経験がある。関越道方面と違い、思いのほか行くのに時間がかかるのだ。まずは近所のガソリンスタンドで給油。その先のセブンイレブンで食料確保。このまま、登山して帰宅まで、どの店にも入らない計画だ。まん延防止重点措置となってしまい、県境をまたぐ不要不急の外出は控えよと、埼玉県のホームページに書かれている。ただし、健康維持のための屋外での運動や散歩は可との事だ。これは、川口市在住の人が、荒川の板橋側の土手を歩いてもいいし、所沢市に住む我々なら、トトロの八国山緑地に行ってもいいよという事であり、長野県の八ヶ岳に行っていいという事ではないのは理解しているが、都合の良いように解釈したくなる。そのかわり、食事も温泉も我慢するから。

給油、補給まで10分で済ませ、セブンイレブンを出たのが3時半。順調だな。早起きは大の苦手で、予定時間に家を出るまでが第一の核心部と言える。以前、「岩雪」の黒部横断特集で。和田丈志が、色々やり繰りして黒部に向かって家を出れば、黒部横断の半分は成功していると書いているが、レベルは違えど同じ意見である。

八王子インターに向かう道で、前を大型貨物が走っている。こちらは遊びだから贅沢は言えないが、せっかく深夜に出たのだからなるべく速く走らせたい。残念だなと思っていたら、昭島のあたりで右折していった。よしよし。その後16号バイパスから八王子インターのランプに入ると、なんと先程のトラックが前にいるではないか。さすがプロ。効率的な経路をご存知なのだな、と感心してついていってしまったのが大失敗だった。気がつくと東京方面に向かっていた。

ああなんて情けない。立川府中で降りて乗り直す。1400円ドブ銭だ。まったくもう。

タイムロスは10分。まあ影響は小さい。中央道を小淵沢で降りる。八ヶ岳SAでトイレに寄った際、iPhone付属のマップアプリに「舟山十字路」をセットしておいた。

その誘導で旧八ヶ岳有料を美濃戸方面に向かい、誘導に従い狭い道を右折。すぐにバリケードがあり、轍がバリケードをかわして奥に続いているので真似して進む。変だなと思っていると閉まった車止めゲートで行き止まり。舟山十字路は3km先だと言っている。

え?駐車場に着けずに敗退?カバンから会社スマホを引っ張り出し、電源を入れてgoogleマップで設定し直すと、戻ってやり直せと言われた。アップルvsグーグルはグーグルの勝ちだった。

6時半頃、憧れの舟山十字路に着いた。7、8台の車が停まっていて、路上で準備中のパーティーが1隊。隣は単独行者が車内で準備中。反対隣にもう一台入ってきた。そこそこ賑わっている。

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殆どパッキングしてあったが、念の為ザックの中身を出して点検してから詰め直す。最初に出すであろうアイゼンを上にして、カッパを乗っけて雨蓋を閉めた。しばらくは林道、樹林帯だからアイゼンの出番は随分先だろう。

7時少し前に出発。林道を行くとすぐに御小屋尾根の分岐がある。直進方向に阿弥陀岳南陵と記載があり、一般道ではないと注意書きがある。さらに林道を進む。アイススクリューをぶら下げたリーダーのいる4人パーティーを追い抜く。2人はかなりの高齢者に見えた。あのお歳でアイスクライミングか。凄いな、ワタシも頑張らねば。

再び南陵を示す道標が出てきたので右折。山裾まで行って急登。トレースを追うのみ。初見参ルートの場合、取付き不明敗退の恐れが付きまとうが今回は回避出来た。雪は八ヶ岳並みという程度か。ラッセルがしたくて来ても、骨のあるラッセルが楽しめる事は少ないと思う。

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割とすぐに稜線に出る。支尾根に見えるがこれが南陵の本体。まずまずの急斜面が続く。木や岩に赤ペンキマークがそこそこあり、クラッシックルートである事が伺える。2時間弱で立場山。山頂標識に標高が書いてあり、地図と違うが地図が正しいようだ。

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尾根は一旦平らになり、若干下るとテント跡がトレースの横に何か所か見られ、更に見通しの良い雪稜に出た。ここが青ナギらしい。感慨深いものがある。

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青ナギの先は樹林帯の急登。その先で尾根は左折して山頂付近の岩場に消えている。青ナギ先の稜線は、雪尾根というよりは雪稜的になってきて自然とテンションが上がっていく。小ピークに出ると正面遠くに富士山!思わず雄叫びが出る。

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100m先に先行者が見え、山頂岩峰に向かって草付雪面を登っている。ルートの予習はしていない。あの岩峰は多分右から巻くんだな。

風が出てきて、ここで上下のカッパを着る。天気は高曇り。うっすらと青空が覗く。風はあるが冬の八ヶ岳としては無風と言って差し支えない。素晴らしい一日になる事間違いない。

堅雪の草付き斜面を岩峰に向かって登る。岩峰手前で、先行者が左下方トラバースして左から岩峰を回り込もうとしているが、なにか問題があるのかザックを置いて行ったり来たりしている。手こずってるのか?やっぱりルートは右巻きか。トレースが不明瞭な草付き雪面を岩壁まで行ってみる。岩は完全に立っており手も足も出ない。違うのか。

先行者に見られていたので恥ずかしいが、来た道を戻り、先行者が一人で残っているテラスに行く。会釈して通り過ぎ、左に回り込むとミックスのトラバース道。これはアイゼン履くかとテラスに戻るといきなり悲鳴。見ると女性がケツをまくっている。

慌ててすみませんとその場を離れる。相方さんに詫びを言って先に進むとルンゼがあり、ロープを使うパーティーのラストが動き出すところだった。足場は悪いがそこでアイゼン装着。その間にお花摘みパーティーは先行して行った。

後で聞くとここはP3ルンゼという所らしい。30m先にビレイ中の二人組。お花パーティーは3人パーティーのロープの横をノーロープで追い抜きにかかっている。待たないのね。

ビレイしている2人の下まで行き、一言二言会話する。正面に露岩があり、左上方にノーロープの単独者が見える。下から見る限り、彼のラインは合理的に見えたが、3人パーティーのトップは露岩下を右に動き始め、お花パーティーはそのさらに右を登っている。

「左行きますか?」と3人パーティーの(おそらく)リーダーに聞かれ、はいと答えて彼らに続いて登る。露岩まで行ってみると、左は岩場で右は草付きだった。薄く雪の乗った岩なのでプチ緊張するが、数歩で草付きとなりあとは問題なく明瞭なリッジに出る。単独の人がザックを降ろして待っていて、3人と連れだったのかも知れない。2人組はずっと先に進んでいる。気まずいから急いでいるんだな。

その先は雪稜と、2度ほど岩場があり、いきなり山頂に飛び出した。爽快なフィニッシュと言えなくもないが、あっけない、と言うのが正直な感想。ロッククライミングのルートなら言うことはないが、リッジルートは最後に10mでいいからヴィクトリーロードがあったほうがいい。

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南陵を見下ろす


こうして、憧れの阿弥陀岳南陵は足下となった。難易度は予想通り。トレースなしで登れればもっと充実するだろうが、八ヶ岳でそれを望むのは無理だろう。

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御小屋尾根から見た南陵。かっこいいね。

下降は御小屋尾根。絶景の急斜面が続く尾根で、知名度からか他の尾根より来訪者は少ないようだが、もっと人気があってもいいだろう。急傾斜パートが終わり、樹林帯に入ると傾斜はガクッと落ち、ほぼ平坦な道になる。ここもトレースがしっかりあるのでただ歩くだけ。不動清水分岐と言う所でカッパとアイゼンを脱ぎ、トレースを辿って駐車場まで。昼過ぎに終了した。

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まあ楽しかった。今回はスキーなしだが、スキーが雪山のメインではないことがはっきりした。この冬はスキー山行とクライミング的な山が交互に出来たらいいな。

note

舟山十字路駐車場 6:45

南陵取付き  7:11

立場山    8:30

P3ルンゼ   9:56

山頂     10:30

不動清水分岐  11:14

美濃戸分岐  11:44

舟山十字路駐車場 12:14