タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

八ヶ岳東面は相性が悪い

出合小屋敗退となった。

冬型がバッチリ決まり、てんくらでは八ヶ岳快晴の予報。しかし、近年冬型で八ヶ岳に行って、悪天候での敗退が多かった。とはいえ、関越道方面は群馬県も含めて全滅の予報だったので、行先としては間違っていなかった。

仕事を引退して、平日からしょっちゅう山に行く生活を夢見ていた。しかし、現実はそうではなかった。家事もこなさなければならないし、仕事に行ったり、せわしく掃除をする奥さんを置いて、一人で山に行くのは気が引けた。そして、雪山に一人で行くと、すごく心配されるのも気が重かった。

先週くらいに、自室の片づけが一段落して、新しいデスクでPCに向かっている私を見て、「ボケちゃうわよ」と奥さんが言った。そうか、動き回っていいのか、と思い、すかさず「来週から山に行くから」と宣言した。行く日は、奥さんが仕事の日がいいだろう。そして、先に帰宅して、夕飯の支度をしながら奥さんを迎えるのだ。このスタイルなら、お互いに受け入れやすいだろう。

初めのうちはこのスタイルを厳守しよう。谷川岳なら、早く出れば熊穴沢でも、芝倉沢でも昼過ぎには下山できる。上州武尊方面のスキー場でもいい。鬼錬して、15時にスキー場を出れば、平日の関越道で18時にはコンロの前に立ってられる。

ところが週明けから寒気が入り、冬型になった。谷川岳は当然大荒れ。上州武尊もてんくらC予報だ。天気が良いのは八ヶ岳阿弥陀岳南稜に行ったときは昼に片付いたが、東面はどうだろう。赤岳山頂まで行く天狗尾根は、昨年敗退して課題になっているが、時間的に無理だろう。ならば、旭岳東稜ならどうだろう。

12時間で日帰っている記録があった。家を2時半に出て、5時半出発。10時間で片付ければ、15時半。18時にコンロまでは行かないまでも、いい線で帰れるかもしれない。やってみるか。

かなり強烈な寒気なので、美しの森駐車場は地吹雪の中だろうと想像していたが、行ってみると無風快晴だ。すごく寒いはずだがそれもあまり感じずに、メッシュ下着、毛下、フリースに、薄いフリースを一枚足しただけのナリで、ヘッドランプを点けて歩き出した。

少しづつ明るくなると、権現岳方面や、南アルプスなども見えてきた。素晴らしい天気ではないか。地吹雪の中を、修行のようによじ登る図を想像していたので、この景色で気分がかなり軽くなった。最高の一日になるかもしれない。考えてみれば、この林道を歩くのは敗退か、遭難遺体回収の時だけだった。この悪循環を、ついに断ち切れるかもしれない。

林道終点までは、なんとなく車の轍のような跡と、人の足跡も随分あったが、鹿の頭蓋骨としゃもじの看板から山道に入ると、足跡は一切なくなった。去年、天狗尾根敗退の時も、この辺りは風でトレースが消えてラッセルだったので、気にもせず先に進んだ。

しかし、歩きながら、野生の勘のようなものが鈍っていると感じた。トレースがまるでないから、どこを進むかは自分で決めるのだが、全然道とは違う場所を進んでしまうのだ。進んでいて、歩きにくいなと感じてあたりを見回すと、違う方向の所に赤テープを見つける。こんなことがたびたび発生した。いかんな。

雪はだんだん深くなった。膝まで潜る箇所も多い。天狗尾根敗退の時も、河原の横断ではそうだったので、出合小屋周辺には、トレースがあるか、なくても大して潜らないだろうと考えていた。

出合小屋が見えた。小屋直前の段差はもう膝上ラッセルだった。小屋周辺にも足跡はない。この頃には、もう先ほどの高揚感は消えていた。このラッセルだと、時間的にキツイな。

小屋には向かわず、そのまま上流に向かって進んだ。赤いテープが点々と続いているが、やはりトレースはない。ラッセルはますます深くなる。テープを追い、ラッセルを続ける。ややモナカ気味のラッセルだ。一歩踏み込み、一歩踏み込みの繰り返し。これではなかなか進まない。赤岳沢と本谷の二股を過ぎ、進行方向左側、すなわち右岸沿いに進んでいたが、進みずらいと感じて見渡すと、赤テープを見失った。二股状になっており、ここは右の(左岸の)沢だろうと進路を変えてラッセル。すると右の尾根にテープがいっぱい見えて、あれがツルム東稜だと分かる。ヤマレコマップで場所を確認すると、旭岳東稜の末端はもう過ぎていた。しかし、この時点でバッテリーは50%。電子地図メインで来るなら、日帰りでも予備バッテリーは必携だ。

「ツルム東稜」の看板の裏が旭岳東稜取付

小屋からほぼ1時間かかっていた。時刻は9時過ぎ。稜線関門が11時だからもう無理だ。帰ろう。

やさぐれ下山では精神衛生上よくないので、アニマルトラックを楽しみながら下る。急斜面を必死に登るニホンカモシカがいたし、親子連れの鹿にも会った。

敗退でも雪山はいいな。(とでも思わないと)