タルキートナでバドワイザーを

群発頭痛により断酒した山好きオジさんが、定年後にアラスカのデナリを登って、祝杯としてアルコールを解禁することを目指す日記。

芥川賞作品を読む

NHKラジオで、日曜日に「著者からの手紙」というコーナーを放送している。先週それを聞いていたら、今年の芥川賞は「バリ山行」という、山登りを題材にした作品だという。自身も登山をするという作者が、作品について語っていた。読んでみたいな。

経済的に、買う気はない。図書館にリクエストしたら、どんだけ待つのだろうか。そんな時、何かの記事で、文藝春秋最新号に載っているので、それを買うのがお得であると書かれているのを見た。そしてその文芸誌を、中高年は夏休みの図書館で見つけた。

面白かった。中小企業の工事会社に転職して日が浅い主人公が、遠い関係の同僚と「バリ山行」に行く。会社は営業改革が上手くいかず、経営が危うくなる。それに従い主人公とその同僚の立場も危うくなっていく、という内容。

立場が似ているのだ。経営状態があまり良くない工事会社、上司と折り合いの悪い、職人気質の社員。コレって俺じゃね?ただ、私は「バリ」はやらない。どちらかと言えば、「バリ」をやっている人たちを??と思っている。

日曜日の放送を聞いていて、この著者は「バリ」をどう捉えているのか気になっていた。「バリ」はもともとバリエーションの略だと思う。たぶんバリエーションルートという言い方を、最初に聞いたのは大学山岳部だと思うが、一般ルートではなく、変わったルート、という意味で、新歓合宿で行った白馬岳では、一般ルートは大雪渓や双子尾根で、白馬主稜や白馬鑓北稜がバリエーションだった。穂高で言えば、北穂南稜ではなく東稜がバリエーション。しかし、前補北尾根はバリエーションとは言わない気がする。本チャンである。

ヤマレコにしばし登場する、「バリ」の愛好者は、比較的標高の低い山で、登山道のないルートをあえて選択する。登山道が破線で示されたルートもしばし含まれる。そういう尾根はだいたい急峻だから、ときおり岩場も現れ、それらをロープなど使って突破し、「危険なのでマネしないでください」などとコメントをつけて紹介している。ただ、おそらくそれらの岩場は、初心者ルートと言われる本チャンの、前補北尾根や一ノ倉南稜などより簡単だと思う。危険かもしれないが。著者が考える「バリ」は、この手の山行の事を言っていて、私の「バリ」観に近かった。

この物語に登場するメガさんも、似たような山行を繰り返すが、ヤマレコで見かける人たちとは違うようだ。ヤマレコの「バリ」愛好者は、自分の山行を明らかに自慢している。それにファンがたくさんいて、コメントや拍手がたくさんついている。メガさんは記録用にヤマレコにアップしているが、自慢をしている風でもなく、フォロワーが多いわけでもない。じゃあ何で、ヤマレコにアップするの?と言われると、作品では語られていないが、それはおそらくヤマレコの機能のせいで、記録をアップすることで、ヤマレコの機能が多く使えるようになるからだ。

メガさんには共感できる部分が多かった。勝手に倉庫の資材を持ち出して、顧客が喜ぶ工事をやってしまうところなど、ホントに自分の事を言われている気がした。ただ、「バリ」中に危険個所を通過するところで、「本当の危機感」を味わうあたりは違った。私は、自分の実力に見合うギリギリの困難を伴うルートには行くが、危機感や、危険を求めることはしない。困難なルートを、自分が持ち合わせるテクニックを駆使して、危険を排除していくのが醍醐味だと思う。

 

著者は、メガさんや主人公が、山に惹かれる理由を、社会活動からの逃避のような形で描いている気がする。正直言って、自分でもなぜ山に惹かれるのかわかっていない。この小説を読んでも、自分なりの答えが出ることはなかった。逃避ではないのは明らかだが。

 

なんで山登るねん、ていう本があったな。